届かなくても、私は此処で。
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雨に揺れる視界。 伝う雫が涙を隠す。 濡れた身体が貴方を欲しがる。 繰り返す、雨垂れの旋律。 冷たい硝子に頬を寄せる。 終わらない旋律が、調律を失う。 消えないものが欲しかった。 終わらないものが欲しかった。 そんなもの、在りはしない。 会うのは賭けだろう。 触れるのは禁忌だろう。 踏み越えてくれるのは奇跡だろう。 繰り返す、雨垂れの旋律。 それは幻聴。 早く、終わって消えてしまえば良い。 早く、私が消えて終われば良い。 雨が、暗い酸性雨が、髪を、肌を濡らす。 溶けて消えてしまいたいと、感情が云う。 理性が嗤い、冷たい刃に指を伝わせる。 首筋に、這うのは。 貴方の幻影か、過去の遺恨か、誰かの熱か。 瞳を、奪うのは。 世界の陰影か、現実の色彩か、真実の響か。 目蓋を下ろし、天を仰ぐ。 長い雨が、続くと云う。 永遠が、雨に混じって気配を報せる。 清涼と湿潤が、身体に浸みて精神を蝕む。 それでも、立ち尽くしたまま。 貴方の傍にと、祈るような、願いを抱いて。 鮮やかな生命力が、自我を狂わせる。 本能を裏切って、欲望と心中。 ほら、傷付けて、みせて。 慰みの夜には、祈りと同じ数の涙。 枯れた数だけ集めた薔薇を、束にして。 瞳を開けている私の柩に捧げて、蓋をする。 声が、聞こえないように。 私が、傷付かないように。 そして、傷付けるように。 貴方の、痛みを。 誰をも拒絶しながら、救いを求める空白を。 己の非力を知り、手を伸ばす無意味さを知りながら、それでもせずにはいられない。 苦しみは、貴方だけのもの。 それでも、貴方と云う存在は。 決して、貴方だけの、独立したものではない。 貴方は、賢過ぎるのだろう。 自覚、故に、悲痛な覚悟。 其処に、どうか。 微かにでも、届くのなら。 大切な、貴方。 私にとって、貴方は―――。 例え、何度跳ね退けられても、私は貴方に、手を伸ばす。 貴方の拒絶が、私個人に向けられない限りに於いて。 貴方の空白の声が、満ちて消えるまでの間。 耳を澄まし、眼を開き、この身体の、終わる時まで。 |